公益通報者保護法改正案骨子 自民党が了承
刑事罰、立証責任の転換ともに
「解雇」「懲戒」に限定
自民党消費者問題調査会 (船田元会長) は1月 28 日、 公益通報者保護法改正案の骨子を了承した。 公益通報による不利益取り扱いのうち 「解雇」 と 「懲戒」 に限定して刑事罰を導入し、 公益通報から1年以内の 「解雇」 と 「懲戒」 のみ、 公益通報を理由に行われたことの立証責任を労働者から事業者に転換する。 常時使用する労働者数が 300 人超の事業者に義務付けられている 「公益通報対応業務従事者」 を定めていなかった場合に、 現行の報告徴収、 指導・助言、 勧告の権限に加え、 立入検査権、 勧告に従わない場合の命令権、 命令に従わない場合の刑事罰を導入する。 ただし、 常時使用する労働者数が 300 人超の事業者は全事業者の 0.5% (従業員数は全従業員の 42.9%) にすぎない。 フリーランスを保護対象に追加するが、 不利益取り扱いへの罰則は対象にはならない。(相川優子)
配置転換に推定規定を
公益通報者保護に詳しい中村雅人弁護士の話
公益通報者保護法の裁判実務で実際に一番多い不利益措置は、 解雇や懲戒ではなく、 配置転換や嫌がらせだ。 不利益取り扱いへの刑事罰、 立証責任の事業者側への転換ともに解雇と懲戒に限定したのでは、 さらにその傾向に拍車がかかることが危惧される。
報復人事で意に沿わない配置転換をされ、 新たな職務内容に苦痛を感じている場合でも、 会社側は、 経験を積むことでその通報者のためになるなどと説明し、 給与が減っていない、 業務の指示などの一定の事実があれば、 会社側の人事裁量権の範囲内と判断されるケースが少なくない。
例えば、 オリンパス元社員の内部通報訴訟では、 優秀な営業マンだった公益通報者に、 新規事業と称して意味のないリサーチをさせるなどの報復人事が行われていたが、 1 審では、 会社側の人事裁量権の範囲だと認められ敗訴した。 2審では、 配置命令を時系列で丁寧に検証し報復人事が認められ逆転勝訴。 裁判官によって判断が分かれている。 最高裁でも勝訴したが、 会社は判決に従わず、 再度の提訴を経て和解までに8年を費やし、 その間に5度の配置転換が行われた。
通報者に対する配置転換や嫌がらせは、 自ら辞めざるを得なくさせる。 即ち事実上の解雇に等しい結果をもたらす。 勤務を続けても、 最初は、 給与の減額がなくとも勤務評定は上がらず、 結果的に給与が上がらず、 報酬面で報復人事がなかった場合と大きな差が出る。
裁判実務を担当するものからすると、 配置転換で一定の事実があれば不利益取り扱いであると推定する規定が最も必要。 立法例として、 例えば、 韓国の法律では、 通報者探しをしたり、 通報を妨害したり、 通報の取り消しを強要した場合などには、 通報を理由として不利益措置を受けたものと推定する、 という規定がある。 今回の改正検討の契機となった EU 通報者保護指令でも、 アメリカの 2024 年2月の最高裁判決でも、 立証責任は、 通報した従業員ではなく事業者に転換されるとしている。
日本の通報者だけが立証負担に苦しめられるのは国際水準にさえ至らない不平等ということになる。 配置転換等の立証責任を緩和する喫緊の必要がある。
加えて、 今改正では、 従事者指定義務違反事業者への立入検査や勧告に従わない場合の命令権等が導入されるが、 法執行には独立した相応の体制が必要になる。 刑事罰に結びつけるだけの予算措置と体制整備が求められる。
報告書 事務局案 改正案骨子を比較
法改正事項 事務局案から変更なし
改正案骨子 報告書に沿った内容
消費者庁の公益通報者保護制度検討会 (座長、 山本隆司・東大大学院法学政治学研究科教授、 11 人) が昨年 12 月 27 日に公表した報告書、 12 月4日時点に公表された事務局案からの変更点、 自民党消費者問題調査会が了承した骨子を比較した。 最後まで、 「配置転換という形の報復行為が今後も後を絶たず、 司法による救済も困難な状況が依然として続く」 と修正を求める意見が出されたが、 法改正事項について事務局案から変更はなかった。 改正案骨子も報告書が求めた法改正事項に沿った内容になっている。 事務局案からの主な変更点は、 「今後改めて検討」 としていた配置転換や嫌がらせ等の立証責任の緩和、 「必要に応じ検討」 としていた義務対象事業者の拡大、 公益通報に必要な資料の収集・持ち出し行為の免責の 3 項目について 「引き続き検討」 に修正されたに過ぎない。(相川優子)